東京高等裁判所 昭和35年(ネ)2788号 判決
一、労働組合により争議行為として部分ストが行われた結果関連職種に影響があるすべての場合に、右部分ストが組合の指令下に行われたものであるの故をもつて右部分ストに参加しない組合員が常に右争議行為に参加した者として部分スト参加者と同様にその給料請求権を失うものではないと解するを相当とする。尤も労働組合が争議行為として組合員全員のストを決議し、その方法として部分ストを採用した場合の如きは別に考えられるが乙第一、二号証によつては本件部分ストが右の場合に当ることを認め難く他にこれを確認するに足る証拠はない。のみならず控訴人らがその主張の時間職場に出勤していたことは当事者間に争なく、右出勤が就労の意思をもつてなされたものと認めるべきこと後記のとおりである本件においては控訴人らを部分スト参加者と共同して争議行為に参加したものとすることは相当でない。
二、訴外組合が本件部分ストを指令した当時における被控訴会社の作業の仕組及び控訴人らの作業が部分ストの行われた職種の関連職種として原判決認定のような状態にあつた事実により、控訴人ら主張の時間における控訴人らの被控訴会社に対する労働契約上の債務は履行不能となつたものと解するを相当とする。そして右は訴外組合によつて行われた部分ストの結果に外ならないものと認められる本件においては、右履行不能は被控訴会社の責に帰することのできない事由によるものであり、また後記のように就労の意思をもつて労働契約に定められた職場に出勤したものと認められる控訴人らの責にも帰することのできない事由によるものと解するを妨げない。
三、控訴人らは、被控訴会社が賃金カツトを行なつた時間(原判決添付別紙第三記載の各時間)中も被控訴会社に出勤し、労務を提供した。控訴人らがその時間中現実に労働に従事しなかつたのは、被控訴人において適切な作業指示をしなかつたためであるから、被控訴人の受領遅滞にほかならず、控訴人らが賃金請求権を失うべきいわれはない。と主張するので検討するに、控訴人らはいずれも本件部分ストを行なつた労働組合の組合員であるから、控訴人らは、その所属組合の実施した部分ストに因り、関連職種たる自分らの本来の仕事がなくなり、就労不能となることを予測しながらあえて出勤していたものであつて、真実就労の意思を有していないのにかかわらず、それがあるように擬装して賃金請求権を確保し、以て使用者たる被控訴会社に経済的打撃を与える目的だけのために出勤していたように認められないでもないけれども、右出勤中の控訴人らが、被控訴会社から指示された代替業務に就くことを拒否した事実を認めうる証拠はないばかりでなく、本件部分ストにより、本来従事すべき仕事がなくなつた後においても控訴人遠山三郎、同高田繁雄、同井上八郎、同行田鴻三、同岩本貞雄、同阿久津真郷、同星野清らは、被控訴会社から指示された他の作業に従事し、あるいは被控訴会社の指示に従い同会社の実施した健康診断を受けた事実があり、これらに対してはそれぞれ賃金が支払われていることはいずれも被控訴人の自認するところであるから、控訴人らに就労の意思がなかつたと認めるのは相当ではない。しかしながら、労働契約に基く労働者の債務の内容は、右契約もしくは慣行によつて定められた労務を供給すること、換言すれば、継続して労務を提供し、定められた作業の仕組に従つた作業に従事することであるから、控訴人らが就労の意思をもつて労働契約に定められた職場に出勤したからといつても、ただそれだけで直ちに右債務につき履行があつたものということはできない。控訴人らは、労務者が労務の提供をなし、その職場に編入された事実さえあれば、履行があつたものというべきであると主張するけれども、控訴人ら主張の時間につき控訴人らが被控訴会社に対して負担する債務が履行不能となつたものと認めるべきこと前記のとおりである以上、右主張は採用できない。
(大場 町田 下関)